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過敏性腸症候群

成人の5人に1人が過敏性腸症候群といわれており、最も日常的な病気の1つです。 しかし、その兆候や症状について他人に話をしにくいこともあり、受診をためらっている患者さんが多い病気です。 過敏性腸症候群は、主として大腸の運動および分泌機能の異常で起こる病気の総称で、 胃腸の検査をしても原因となる病気がみつからないのに、 精神的ストレスなどの刺激に対して腸が過敏な状態になり、下痢や便秘などの症状が繰り返し起こります。 仕事や人間関係の悩みが多い現代社会では急増中です。

過敏性腸症候群の3つの症状

会社が休みの日や遊んでいるときなどにはあまり症状が出ず、 ストレスの多い時期になると症状が強くなる傾向にあります。

神経性下痢(下痢型)
激しい腹痛の後、粘液性の下痢便が出ます。 朝起きてすぐ、朝食後、出かける前、電車の中、到着後など、便意をもよおす回数が多いのが特徴です。
けいれん性便秘(便秘型)
腹痛を伴い、ウサギのフンのようなコロコロした便がポタンと落ちて水に浮かびます。
交代性便通異常(交代型)
下痢と便秘を繰り返します。 便通の異常以外に食欲不振や腹部膨満感、吐き気、おなら、頭痛などを伴う場合もあります。

原因

現代人にとってストレスは避けられないもの。 うまく処理できれば問題ないのですが、心の中にため込んでしまうと自律神経のバランスが乱れ、 排便のメカニズムがくずれて過敏性腸症候群を引き起こします。 「腹がたつ」「はらわたが煮えくりかえる」など、胃腸と感情との関わりは深く、「心の鏡」といわれます。 つまり、胃腸はストレスのダメージを非常に受けやすい臓器なのです。 大きな不幸がふりかかると一晩で胃潰瘍になって吐血する、というケースもあります。 大腸のダメージは胃ほど急激には起こりませんが、ストレスが重なると過敏性腸症候群が起こります。

かかりやすい性格は

まじめな人、気が弱い人、うつ傾向の人は要注意です。 過敏性腸症候群になる人はもともと精神的なストレスに弱い性格の人といえます。 病気の診断の際、問診や性格テストを行いますが、その結果からも過敏性腸症候群と性格は深く関わっていることが明らかになっています。 また、ストレスにさらされる機会が多い20代の女性や30〜40代の働き盛りの人にも多くみられます。

検査・治療

病院では問診の後、過敏性腸症候群かどうかを診断するため性格テストや心理テストなどの検査を行います。 さらに他の病気がないかを調べるため、内視鏡検査なども行うこともあります。

過敏性腸症候群の人は「心配しなくても大丈夫」と説明しても納得せず、かえって悩んでしまうことが多いので、 まず病気の内容や生活習慣や性格など病気が起こった背景を患者さん自身が理解し、 医師を信頼して二人三脚であせらず治療を進めることが大切です。

治療の主軸となるのが、生活習慣と食事の改善です。 病気について心配しすぎないようにし、規則正しい生活を送るなど、健康人としての生活習慣を身につけます。

便秘や下痢などの症状を改善するためには、腸の運動を調整する「腸運動調整薬」や鎮痙薬、抗うつ薬、軽い精神安定剤などを処方します。 ストレスや緊張をやわらげる「自律訓練法」などの精神療法を指導する場合もあります。

薬物療法

薬物治療としてはまず、便秘や下痢などの症状を改善するために、 腸内の水分バランスを整えるポリカルボフィルカルシウムがよく使われます。 効果が出るまでに1〜2ヶ月かかりますが、下痢、便秘のどちらでも改善が期待できるのが特徴です。

下痢型過敏性腸症候群には、脳からの過度の刺激が大腸に伝わるのを抑えて下痢を防ぐとともに、 大腸の痛覚が脳に伝わるのを抑制して、腹痛を抑える効果があるイリボー錠(一般名・ラモセトロン塩酸塩)があります。 精神的な緊張が強い場合には精神安定剤などを処方することもあります。

便秘型過敏性腸症候群には、酸化マグネシウムがよく使われます。 大腸の中で水分を引きとめて便が硬くなりすぎるのを防ぎます。 下剤は、腸の運動を活発化させて便を出そうとするものが多く、過敏性腸症候群のけいれん性便秘には逆効果です。

食事面・生活面での注意点

食事で注意すること

過敏性腸症候群の人は、もともと神経質であれこれ思い悩むことが多く、 「あれは食べない方がいい」「これは症状を悪化させる」などとアドバイスすると気にしすぎて、 楽しく食事ができなくなってしまうようです。

「冷たいものを飲んだ後、下痢がひどくなる」など、症状を悪化させる食べ物については、体験的に覚えているケースが多く、 「その食べ物はできるだけ避ける」程度に気楽に考えましょう。 ただし、偏った食生活は過敏性腸症候群の人に限らず、便通異常の原因となりますから禁物です。

次のような点に気をつけ規則正しい食事を心がけましょう。 アルコールはストレス解消や血行促進の効果があるので、適量を守れば飲んでも構いません。 ただし、冷たいビールで下痢しやすい人はウイスキーや焼酎のお湯割りにするなどの工夫をしましょう。

  • 内容に神経質になるより楽しい食事を心がける
  • 暴飲暴食は避け、腹八分を習慣にする
  • 外食やインスタント食品やファーストフードなどは脂肪や炭水化物が多い割に、 ビタミン類や食物繊維が不足するため、できるだけ避ける
  • 水分不足は便秘の原因となるため、水分を十分に摂る
  • ひとりで食べる「孤食」はできるだけ避け、家族そろって楽しい雰囲気で食事をする
  • 塩分は1日10グラム以下に
ストレスをためない生活法は

まず、何がストレスの原因になっているかを突き止め、つらいことから目をそむけるのではなく、 積極的にストレスを管理するよう心がけましょう。 家庭内や仕事上のトラブルは逃げようとすればするほど、心の重圧感は大きくなります。 「適度なストレスは心身ともに緊張感を与え、生活の刺激になる」とプラス思考でとらえ、 自分なりのコントロール法を見つけてください。

また、自分自身の生活を客観的に観察してみると、自分でストレスを作り出していることに気づくケースも多いはずです。 性格を完全に変えることはできませんが、性格上の問題を認識し、 できるだけ気持ちの持ちようを変えるなどの努力をしましょう。

ストレスに強くなるには、心身の健康を高めることが何より大切です。 心身のどちらかに偏らず、たとえば、普段、デスクワークで疲れている人は休日には積極的に体を動かしたり、 あまり読まないジャンルの本を読むなど、気分をリフレッシュすることを心がけてください。 日常生活にメリハリをつけ、心に柔軟性をもたせることも有効です。

最後に

過敏性腸症候群は、幸いにして、瘍性大腸炎やクローン病などの深刻な腸の病気に比べて、 腸管組織の炎症や変化、結腸や直腸のがんの危険性が低く、 多くの場合、食事、生活、ストレスなどの管理をしっかり行うことでコントロールできます。

心の問題が体の症状に出る病気だけに、主治医の先生と相談しながら治療を進め、 気持ちの持ち方や生活を改善することが大切です。

内科 吉井和也

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