痙縮 ( けいしゅく : 手足の筋肉のつっぱり )
痙縮とは?
脳卒中でよくみられる運動(機能)障害の一つに痙縮(けいしゅく)という症状があります。 痙縮とは、筋肉が緊張しすぎて、手足が動きにくかったり、勝手に動いてしまう状態のことです。
痙縮では、手指が握ったままとなり開こうとしても開きにくい、肘が曲がったままとなる、 足先が足の裏側のほうに曲がってしまう、歩いていると足の指が曲がってしまい歩きにくくなるなどの症状がみられます。
痙縮による姿勢異常が長く続くと、筋肉や関節が固まってしまい(拘縮(こうしゅく))、 日常生活に支障が生じてしまいます。 また、痙縮がリハビリテーションの障害となることもあるので、痙縮に対する治療が必要となります。
厚生労働省の患者調査結果によると、本邦での慢性期の脳卒中患者は約134万人 1) と報告されており、 国内には約55万人の脳卒中後の痙縮患者さんが存在すると推定されます。 また、頭部外傷、脊髄損傷、脳性麻痺、多発性硬化症などの後遺症に由来する痙縮についても同様の病態をとり、 これら脳卒中後以外の原因に基づく重度痙縮症例の方が8万人以上 2) いると推計されています。
1) 厚生労働省, 2008
2) 平 孝臣, 赤川 浩之, 岡田 芳和 ら. 本邦における痙縮の疫学的調査. リハビリテーション医学. 2000;37:863.
痙縮の治療法
現在、痙縮の治療には、内服薬、ボツリヌス療法、神経ブロック療法、外科的療法、バクロフェン髄注療法などがあります。 患者さんの病態や治療目的を考慮して、リハビリテーションとこれらの治療法を組み合わせて行います。
内服薬(飲み薬)
緊張している筋肉をゆるめる働きのある薬を服用します。
神経ブロック療法
筋肉を緊張させている神経に、フェノールやアルコールなどを注射し、神経の伝達を遮断します。
バクロフェン髄注療法
バクロフェンという痙縮をやわらげる薬の入ったポンプを、おなかに植込み、薬をせき髄周辺に直接投与します。
外科的療法
筋肉を緊張させている神経を、部分的に切断したり、神経の太さを縮小したりする手術です。
ボツリヌス療法
筋肉を緊張させている神経の働きを抑える、ボツリヌストキシンという薬を注射します。
ボツリヌス療法とは?
ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌(食中毒の原因菌)が作り出す 天然のたんぱく質(ボツリヌストキシン)を有効成分とする薬を筋肉内に注射する治療法です。
ボツリヌストキシンには、筋肉を緊張させている神経の働きを抑える作用があります。 そのためボツリヌストキシンを注射すると、筋肉の緊張をやわらげることができるのです。
ボツリヌス菌そのものを注射するわけではないので、ボツリヌス菌に感染する危険性はありません。
この治療法は世界80ヵ国以上で認められ、広く使用されています(2014年1月現在)。 日本では眼瞼けいれん、片側顔面(へんそくがんめん)けいれんのほか、 次の疾患に対して医療保険の適用が認められており、これまでに10万人以上の患者さんがこの薬による治療を受けています。
- 脳卒中、頭部外傷、脊髄損傷、多発性硬化症などに由来する手足のつっぱり
- 痙性斜頸(けいせいしゃけい): 首や肩の筋肉の張りによる異常姿勢
- 重度のワキの多汗症
脳神経外科