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摂食・嚥下障害について
2015/12/04 7階多目的ホール 第59回脳と神経の勉強会

私たちは食事のとき、食べ物の大きさや量などを目で見る〜 口の中に取り込んで噛み切ったりつぶしたりして唾液とまぜて塊を作る〜舌を使って喉へ送り込む〜 さらに食道、胃へ送り込む、という一連の動作を、意識しなくても問題なく行うことができます。
しかし、加齢や病気などさまざまなことが原因で、これらの動作が円滑にできなくなることがあります。
食事は、栄養を摂るだけでなく、楽しみやコミュニケーションの場であり、生活の中の大切な時間の一つです。 病院や施設におられる要介護高齢者の方に対する日常生活における関心事の調査でも、 楽しいことの1位は「食事」となっています。
いつまでも食事を楽しむために、できる訓練や工夫があります。
むせる、咳が出る、喉の違和感、食べ方の変化、声の変化…。

嚥下造影検査(VF)
レントゲンをあてた状態で、バリウムやバリ
ウムを含む食品を食べていただき、飲み込み
の様子を観察する検査。
うまく食べられない、飲み込めない状態を摂食・嚥下障害といいます。 食事中にむせる、食べ方が変わった、喉に違和感がある、食べ物が喉に残っている感じがする、などの症状があります。
原因は、口・喉・食道に炎症や腫瘍などの問題があり、食物の通過が妨げられている器質的原因。 脳血管障害や神経・筋疾患、加齢などで食物の通り道の動きに問題があり、 うまく送りこめない機能的原因。 症状を訴えているのに器質的・機能的原因がない心理的原因。 拒食症や過食症、うつ病などが考えられます。
嚥下機能の評価では、設問に回答する質問紙や 唾液の飲み込みを30秒間繰り返す唾液飲みテスト、 冷水を飲み込む水飲みテスト、 飲み込む様子を内視鏡カメラで観察するビデオ内視鏡検査(VE)、 飲み込む様子をレントゲン撮影で観察する嚥下造影検査(VF)などが用いられます。
摂食・嚥下障害になるとどうなるの?
食道に入るべき食物や唾液が誤って気管に入って気道が炎症する誤嚥性肺炎、 水分摂取が難しくなることから脱水、 食事摂取が難しくなったり量が減ることによる低栄養、 食物が詰まることによる窒息などを引き起こすことが考えられます。 これらが原因となって活動性が低下すると、心身の機能が低下する廃用症候群に陥りやすくなります。
中でも肺炎は、日本における死因第3位で、ほとんどが高齢者でその多くは誤嚥性肺炎となっています。 誤嚥すれば必ず肺炎になるわけではなく、免疫力や体力などの状態と誤嚥した物の量や内容、 誤嚥頻度のバランスが崩れたときに肺炎になりやすくなります。
治療・対策は?
機能回復のための訓練、手術、その他飲み込みやすい食形態・摂取方法の調整、環境設定などを行います。
訓練では、口・頬・あごの運動、マッサージ、発声訓練、呼吸訓練などの嚥下機能訓練。 舌の筋力向上をめざす舌圧トレーニング。 咽頭の筋力向上をめざす頭部拳上訓練など。
訓練等で改善できず避けられない支障がある場合は、手術を行うこともあります。 手術には、嚥下機能を改善するための咽頭拳上術や輪状咽頭筋切断術、 誤嚥防止のための気管食道分離術や咽頭全摘出などがあります。

正しい食事姿勢
とろみ食・ミキサー食・ペースト食・ゼリー食など飲み込みやすい食形態に変える、 食具や食器を適切なものに変える、 などの対策も必要に応じてとるとよいでしょう。 また、食事のときの姿勢を整えるだけでも飲み込みは変わってきます。
自力で摂取できない方への介助では、できるだけ同じ目線の高さで、 患者さんの飲み込みに合わせた速度や一口量を見極めて行います。 自力摂取につなげられる方には徐々に介助量を減らす、残された機能に応じた代償手段も講じるなど、 患者さんの状態に合わせた対策をとりましょう。
自分で口から食べることで、食事の楽しみが続き、意欲にもつながります。 できるだけ長く食事を楽しめるよう、嚥下機能の維持に努めましょう。
リハビリテーション部・言語聴覚士 若林 豪